純情エゴイスト

□心と体
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弘樹の手は酷く震え、叫びさえも震えており…後の言葉は弱々しく吐き出された。

うつむく弘樹の床は、ポタポタと濡れていく。

「・・・」

俯いているため、弘樹から野分の顔は見えないが、静かな空気は怖い。

恐る恐る顔を上げると、目の前に迫っていた野分に噛みつくようなキスをされる。

いつもの優しさなどなく、ただ貪られ喰われる。

いつの間にか近付いていた身体は隙間も無いほど野分の胸の中におさまっている。

後頭部を抑える手は唇が離れることを許してはくれず、飲みきれない唾液が口の端から流れる。

次第に霞む思考と同じく、足の力も抜けてゆき、最終的には野分の腕にすべてを預けていた。

野分は腕にかかる体重に申し訳ないと思いつつも、その腕を緩めることが出来なかった。

野分にとって初めてのことかもしれない。

自らの欲のままに弘樹を抱くなど…いや、思えば…弘樹と出会ってから魅了され続けており、その欲に勝ったことなど一度としてなかったのだ。

弘樹、という存在はそれほどまでに理性を蝕んでいく。

そして気付けば、抜け出せないのだ。

唇を離した瞬間に野分は改めてその事実を思い知る。

「俺のこと、好きにしていいから…だから、だからッ!・・・」


キラワナイデ


濡れた瞳で紡ぐ言葉は、野分の理性を焼き切るには十分だった。

(たくさん愛しますから…!だから、どうかそんなこと言わないでください。)

今日の弘樹は普段では絶対言わないようなことを要求してくる。

野分の顔が見たい

手を繋いでいて欲しい

どれもこれも可愛いお願いばかりで、野分は眩暈がしそうだった。

極めつけには…「早く野分が欲しい…」だ。

まだ慣らしてもいない後ろの穴はまだ野分を迎え入れることが出来ない。

野分はわずかな理性を騒動員させて、突き上げたい衝動を抑える。

そして、弘樹の口がこれ以上野分の理性をどうにかしてしまう前に、その唇を深く塞いだのだった。

野分にとっては随分久しぶりの温もりは、欲よりも甘やかしたいという衝動に駆られ、ひとつひとつの愛撫が甘くなってしまう。

弘樹には、その愛撫が苦痛でしかなく、嫌でもあの夜を頭がかすめる。

自分は傷ついてもいいのだ。

それが野分に付けられた傷なら、それは弘樹にとって罰なのだ。

弘樹は野分に激しく抱かれることで、あの夜に抱いたのは野分だと思い込みたいのだ。

弘樹は野分を押し倒し、熱り立つ性器を口に銜える。

喉の奥まで銜え、嘔吐きそうになるのを我慢して愛撫する。

野分はダイレクトな刺激に欲を吐き出しそうになるが、それを抑えこんで弘樹を見遣る。

すると…弘樹は今までにないくらい艶を帯びた表情をしており、そして美味しそうに野分のソレを銜えているのだ。

その顔を見た瞬間に野分は無意識のうちに達していた。

予想不可能な出来事に弘樹も喉の奥で受けてしまい、そのまま反射で飲み込んでしまう。

その喉の動きが気持ちよく野分の興奮は冷めない。

弘樹は野分の出した精液を飲み込むと、ちゅ…と音を立てて唇を離す。

そして、まだ慣らしてもいない肛門にソレを押しあてた。

唾液で濡らした指で穴をこじ開け、先端を無理矢理捩じ込む。

「ヒロ、さんッ」

あまりのキツさに野分も息を詰まらせるが、弘樹はそれを無視して腰を進める。

野分と繋がれた手は痛い程握られ、弘樹も辛いのだと分かる。

野分が制止の言葉を紡ごうとすると、それを遮るように弘樹が口を開く。

「痛くてもいいから、野分が欲しい。だから、早くいっぱいにして?」

その破壊力溢れる言葉に煽られ、野分はたまらず腰を突き上げた。

「ぁ゛ッ!」

小さく漏れた悲鳴は、すぐに甘い吐息を吐き出す。

迎え入れた喜びに胎内が蠢く。

その動きに野分も腰の動きを止めることが出来ない。

余裕がないのだ。

気付けば弘樹を押し倒し、その身体を貪っていた。

今までに何度となく突いた弘樹のポイントを擦り攻めていく。

弘樹の声も艶を帯び、それがまた野分の歯止めを壊していく。

「野分、野分…」

弘樹は喘ぎ混じりに「野分」とただひたすら呼び続ける。

そして、野分はそんな弘樹を抱きしめて、耳元で優しく弘樹の名を呼ぶのだ。

キスして、名を呼び合い…ぐちゃぐちゃの思考で弘樹は問いかける。

「夢、なんかじゃないよな…?」
「ヒロさん…。あなたを愛しているのは俺です。」

事情中にも離さなかった手を持ち上げて、自らの頬にくっつける。

「うん。」

もう片方の手を伸ばし、野分に抱きつく。

自分より温かい体温。

いつも安らかな眠りをくれたのは、たしかにこの香りだった。

「野分、あいしてる。」

たどたどしく告げた言葉には、精一杯の愛が詰まっていた。

もう出すものも無い弘樹だが、未だに熱り立つ野分に夜を迎えるまで愛されたのだった。
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